日本の原風景と、青春の淡い記憶。
「富士山さんは思春期」で人気を博したオジロマコト先生の次作。前作と同じく高校生が主人公、舞台は田舎。そして今回のヒロインは年上のお姉さん。
前作でも見せた、キャラクターの表情による心情表現も健在。物言わぬ表情とシーンの余白で、微妙な心の機微を描いている。
気持ちを引き込む絵作りがホントに上手い。
作品情報
- 著者/オジロマコト
- 掲載誌/週刊ビッグコミックスピリッツ
- 既刊/全8巻(2018年10月6日現在)
- 受賞/2016ブロスコミックアワード 大賞
あらすじ
のどかな田舎の高校に進学した源(げん)。
下宿先の、親戚のお寺で同居することになった3つ年上の知恩(ちおん)ねーちゃんは、しっかり者に見えてなんだかとっても無防備で……?ダサくて、3つ年上で、働き者で、あっけらかんといい感じな知恩さんとおくる、のどかでソワソワ縁側ラブコメ!
おすすめポイント
やっぱり知恩さん
年上らしさと無邪気さ、そして大人の諦観。
知恩さんは大学進学せず、実家のお寺を手伝いながら暮らしている。家事全般はもちろん、お寺のことやご近所付き合いなどそつなくこなす。
源のことも年下ながら、個人としてキチンと尊重してくれる。お姉さん値はマックス、19歳とは思えない懐の広さ⋯なんだけど。
たまーに生来のおてんばが顔をのぞかせる。しかしイタズラは小学生レベル。育った環境か、そもそも天然なのか⋯お姉さん属性だけでなくギャップまで搭載。
ただそんな無邪気さの影にも、源への言葉にならない感情が見え隠れする。
須田 源の魅力
高校1年、年頃の男子ながらとても思慮深い。しっかり謝罪や感謝を伝えることができ、自分なりに出来ることを考えて行動する。
ハーレム要素の強い主人公特有の「自動的に向けられる好意」もない。源自身の人間性で、しっかり交友関係を成り立たせてゆく。特に剣道部に入部してからは、より大きな成長を見せる。
知恩さんだけでなく、源にもどんどん思い入れが強くなる。源って普通にすごく優しくて、いい子なんだよなー。でも高校生でこの度量の広さは、ちょっと反則じゃない?
「思い出」というトゲ
「見送る側」の胸に残る、幼き頃の思い出。
源は子どもの頃、知恩さんの家に預けられていた。知恩さんと遊んだ、たくさんの思い出。しかし源は家に戻ることになり、その思い出は次第に薄れていく。
「見送る側」の知恩さんが暮らすのは田舎。時間は季節とともに、穏やかに流れていく。源との思い出が残る部屋⋯記憶は色あせても消えることはなかった。
そんな彼女が、久しぶりに会う高校生の源。過去への憧憬や、大きくなった源への喜びや戸惑い。
ただ源は大きくなっていても、根っこの部分は変わっていなかった。嬉しい反面、子どもの頃のように笑いあうには、2人は大人になりすぎていた。
そう思っても思い出のトゲは、あの頃の幸せな記憶で、心をチクリと刺す。その気持ちから生まれる、絶妙な距離感に切なくなる。
昼間ちゃんのツンツン
デレなさそう⋯から、デレる破壊力がすごい。
ジト目がかわいいサポーター少女、昼間陽子。知恩さんのお隣さんで、源の同級生。思いっきり思春期の女の子。知恩さん大好きで、べったり懐いている。その知恩さんと仲がいいからか、都会から来たのが気にくわないのか⋯源にはなぜか当たりが強い。
ただ時が進むにつれ、それも少しずつ変わってゆく。どんなにキツく当たっても、昼間ちゃんと自然体で向き合う源。そんな源への自分の感情にとまどい、イライラがつのる。
それがはっきりと描かれる6巻の第49話、昼間ちゃんのかわいさで悶絶。「都会モンなんかになびかないから!」といいながら、めっちゃ押しに弱いのもチョロくてかわいい。
6巻は昼間ちゃんとのストーリーが盛りだくさん。今まで貯めまくったデレ成分が爆発します!
まとめ
この作品は公式で「ラブコメ」と銘打っているが、そう単純な作品ではない。
主役の1人である源は、知恩さんに「異性」だけではなく、たくさんの感情が絡みあう。年上への憧れや子供時代の思い出。さらに学生の友人や、部活動など多くの経験をしていく。
そして知恩さんにも葛藤が垣間見える。年上としての源への距離感やお寺のこと、そしてモラトリアムの終わり。田舎で生きてきた知恩さんは、これからの決断をする時が訪れる。
子どもから大人になった2人の関係は、変わらずにはいられなくなっていく。これが切ないというか、暖かいというか。
おまけ
タイトルどおりの猫まみれ。猫を飼ったことがあるとわかる、猫のふとした姿を、とてもリアルに描いている。
飼っていた猫を思い出して⋯懐かしいような寂しいような気持ちになる。あー猫と暮らしたい。
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