フィクションの特別な存在「殺し屋」。
圧倒的な戦闘力と幅広い知能を駆使し、困難かつ汚れ仕事でもこなす。そして犯罪者でありながらも「カッコいい」と感じてしまう魅力を持つ。
「ザ・ファブル」もそんな殺し屋の話。普通と違うのは、「殺し」をしない殺し屋。「伝説の殺し屋が1年間休業、大阪で一般人として暮らす」というストーリー。
殺し屋が「殺さない」、それが殺し屋らしさをより鮮明に浮き彫りする風変わりな作品。
作品情報
- 著者/南 勝久
- 掲載誌/週刊ヤングマガジン
- 既刊/全15巻(2018年9月00日現在)
- 受賞/第41回講談社漫画賞 一般部門
あらすじ
殺しの天才〈ファブル〉はいつものように仕事を終え、ボスに報告へいくと「今年は仕事をしすぎたから、1年間休業して身を隠せ」と言われる。
そして「どんな環境にも適応できるよう思いっきり一般人になり、仕事や友達に恋、フツーに生きる人間を学べ」と。
〈ファブル〉は佐藤 明、助手は佐藤洋子という名前を与えられる。2人は佐藤兄弟として、ボスに親交のある大阪のヤクザ「真黒組」に預けられる。そこで一般人として新生活を始める。
おすすめポイント
佐藤のクセになる性格
〈ファブル〉こと佐藤は、幼いころからボスに育てられた生粋の殺し屋。一般的な知識はあるが、比較対象がいなかったためか「知識と行動のズレ」がすごい。
「えーちょっと佐藤くん 枝豆の皮食べるの?」
「え?ひょっとして⋯ふつう⋯てのは食べない⋯のか?」
「まあ⋯食べれなくもないがー⋯ふつうは⋯食べんわなァ⋯」(中略)
「スイカの皮も食べたりしてー⋯」
「⋯えっ ふつうは⋯スイカの皮⋯食べないのか⋯」
「え!?」(中略)
「骨は食べちゃダメーッ!」
「え?(手羽先の骨バリバリ食べてる)」
「泣き虫のクセにィーーなんかスゴイな⋯佐藤⋯」
「間違ってないが正しくもない」グレーすぎる解答。佐藤が一般人とあまりに違う世界の住人すぎて、勘違い落語のようなトンチンカンなやりとりが面白すぎる。佐藤本人も天然なのか、会話のリズムやチョイスが独特。
さらに佐藤は行きがかり上「泣き虫のヘタレキャラ」を演じている。しかし伝説の殺し屋、ハンパじゃない能力が隠しきれない⋯⋯というより佐藤にはそれが「ふつう」。殺し以外のことは変に隠そうとしない。
その結果「不良に絡まれて泣くヘタレで、ナイフ1本あれば山で自給自足の生活ができ、往復40分かかる距離を汗ひとつかかず20分で移動し、食べ物は皮や骨ごとバリバリ食べる、そして超猫舌」という意味不明すぎるキャラになってしまう。
どこにでもある日常
佐藤は殺しのプロとして「ふつう」になるべくバイトを始める。
時給は最低賃金以下の800円。メインは配送業務だが、事務所やトイレの掃除など雑務もこなす。しかし佐藤は嫌な顔ひとつせず、とても楽しそうに働く。
バイトから帰ると、屋上でサンマを焼く。それを食べながら、お気に入りの芸人が出ているドラマを見る。そして変わらない日々を終える。
私たちにとって当たり前の日常。だが殺し屋の世界にずっと住んでいた佐藤には、新鮮で穏やかな日々。
ただ佐藤は超一流の殺し屋。この生活が期限付きであり、殺し屋として「ふつう」の行為をしている。そのことを忘れていない。
「どこにでもある日常」を楽しそうに過ごす佐藤。しかし、ふと終わりを見据えるような姿に、胸を締めつけられてしまう⋯⋯。
〈ファブル〉佐藤の異次元な強さ
ふつうの日々を送っていた佐藤だが、やはり殺し屋の業なのか、ゴタゴタに巻き込まれてしまう。
しかし「殺し屋の本領発揮ーー。」とはいかない。佐藤はボスに「殺しは禁止」の命令をうけていた。
今まで「殺す戦い方」をしてきた佐藤は、「殺さない戦い方」をしなくてはならなくなる。佐藤曰く、それが何よりも難しいと。
ボスから「6秒以内に敵を倒す」訓練をされている佐藤は、「殺せない」状態でも圧倒的な強さ。それが〈ファブル〉をいかに異質かを表現している。
- 単純な戦闘力
佐藤(手加減あり)>>>(超えられない壁)>>>佐藤妹>>(超えられない壁)>>普通の殺し屋
現状はこんな感じ。しかも佐藤曰く、佐藤妹の100倍の強いと豪語するインフレっぷり。ヤクザの闇取引所に突入するのは「散歩みたいなもの」くらいらしい。果たしてこれから佐藤レベルの殺し屋が出てくるのか⋯⋯。
まとめ
この作品の面白さは、佐藤という「殺し屋フィルター」で見る「どこにでもある日常」。
佐藤は今まで殺すため、人と相対してきた。彼から見た「ふつう」の世界は、私たちの知らない様々な側面を見せてくれる。
おまけ
今回は主役の佐藤が主軸だったけど、サブキャラにもいいキャラがたくさんいる。
特におすすめは、酒が主食「ミス・アルコール・ガール」佐藤の妹。ヒマつぶしに人を酔わせて、ベロベロするのが趣味の小悪魔、というか悪魔。
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