漫画の「過去」が描く、新しいラブコメディ。
WEBを中心に活動する漫画家、なかとかくみこ先生の初単行本。先生と生徒が「恋人になった」あとを描いた作品。
その健全で爽やかな交際と、ちょっとズレたやりとりに思わず笑顔になってしまう。
お話は短いオムニバスになっていて、テンポよく読み進められる。
作品情報
- 著者/なかとかくみこ
- 掲載/マトグロッソ・pixiv
- 既刊/全2巻(2018年10月14日現在)
- 受賞/このマンガがすごい!2016 第4位
あらすじ
雨井やよい、16歳。
塩田先生を好きな気持ちを、いつでも全力でぶつけていく女子高生。
塩田嗣春、29歳。
雨井ちゃんの愛情表現に、若干引きつつ惚れこんでいる高校教師。
付き合っていることは、周りにヒミツ。
引用:Matogrosso
おすすめポイント
雨井ちゃんのかわいさ
塩田先生への「好き」が雨井ちゃんをかわいくする。ツリ目でキレイな髪がチャームポイントの、猪突猛進で一途な雨井ちゃん。
雨井ちゃんは授業中も私生活でも、頭の中は塩田先生でいっぱい。いつでもかまってほしいのに、からかわれてばかり。その姿がなんとも愛らしい。
ただちょっと愛情が過激。塩田先生の担当教科は、引くほど勉強してたり。モテると心配だからと、ハゲでデブにしようとしたり。
そんな空回りも、いっぱいの「好き」から来ているのがわかって、やっぱりすごくかわいい。
塩田先生のさりげなさ
ちょっとひねくれてるけど、穏やかで包むような愛情。えくぼでタレ目がチャームポイントの、ずぼらで優しい塩田先生。
雨井ちゃんのマグマのような愛情を、諭しつつもしっかり受けとめる⋯ダメな時もあるけど。「先生と生徒」という立場をわきまえて、節度のある関係を保っている。
恋愛へ受け身に見えがちだが、実際は雨井ちゃんをいつも気にかけている(雨井ちゃんは「私ばっか好き」と思ってる)。
雨井ちゃんとは逆で「好き」が前に出てこない。大人らしく、素直じゃないところもかわいい。
あの頃へタイムスリップしたような
80〜90年代の少女漫画の、懐かしさと新鮮さ。
作画のデフォルメや漫画表現など、まるで古い作品のような錯覚を起こす。塩田先生が着ているシャツのシワや、雨井ちゃんのレトロな感情表現など。ごく自然に描かれる。
内容はシンプルなラブコメディ。今では失われつつあるプラトニックな関係と、ストーカー行為スレスレの雨井ちゃん。
もはや現代では「非現実」なストーリー。しかし画風と相まって「リアリティ」が生まれ、「現在する過去」として自然に受け入れられる。(劇中で雨井ちゃんがスマホを使っていたりする)
そしてアナログの線が作品に熱量をもたせて、キャラクターに芯のある感情を見せてくれる。
余談
五十嵐大介先生の「魔女」もそうだけど、アナログにはデジタルにないパワーが確かにある。
まとめ
この作品には大きな事件はない、当たり前の日常がただすぎていく。先生との交際がバレそうな気配はないし、2人の距離はあいかわらず。
でも、塩田先生と雨井ちゃんが見る世界はいつも特別だ。ただの桜も塩田先生が笑えばキレイに見える。校舎裏のビワの木、一緒に食べたその実は信じられないほど美味しかった。
そんな「2人だから」こその小さな喜びを、優しくきめ細やかに描いている。
そして個人的だけど、私はこういう画風が大好きなんだ。
おまけ
雨井ちゃんって宇野亜喜良や米倉斉加年みたいな、サイケというかエキゾチックさを感じる。あの涼しげな目元と雰囲気だからかな。
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